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大阪地方裁判所 平成11年(ワ)10585号 判決 2000年7月27日

原告

ヨシダエルシス株式会社

右代表者代表取締役

【A】

右訴訟代理人弁護士

梅本弘

川村和久

嶋津裕介

右補佐人弁理士

【B】

被告

東洋システム株式会社

右代表者代表取締役

【C】

右訴訟代理人弁護士

小林貞五

右補佐人弁理士

【D】

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

一  被告は、別紙被告製品目録(「原告の主張」欄)記載の物件を製造し、使用し、販売し、貸し渡し、又はその販売若しくは貸渡しの申出をしてはならない。

二  被告は、その本店及び営業所に存在する被告製品、その半製品、製造用金型及び宣伝用のカタログ、パンフレットを廃棄せよ。

三  被告は、原告に対し、金三五〇〇万円及びこれに対する平成一一年一〇月一五日(本件訴状送達の日の翌日)から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  基礎となる事実(いずれも争いがないか、後掲の証拠又は弁論の全趣旨により認められる。)

1  原告の特許権

原告は、次の特許権(以下「本件特許権」という。)を有している。

(一) 発明の名称

養鶏ケージユニットにおける養鶏ケージと糞受体との構造

(二) 出願日

平成元年一二月二八日(特願平一―三四四三七三)

(三) 登録日

平成八年一一月二一日

(四) 特許番号

第二五八五一一五号

(五) 特許請求の範囲

本件特許権の特許出願の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の特許請求の範囲の記載は、本判決添付の特許公報(以下「本件公報」という。)の該当欄記載のとおりである(以下同特許請求の範囲欄記載の特許発明を「本件発明」という。)。

2  本件発明の構成要件の分説

本件発明の構成要件は、次のとおり分説するのが相当である。

イ 中央部に垂直に形成された通風路を介して左右に、所定間隔を以て多段直立に、且つ縦列に多数の養鶏ケージを背中合わせに配設すると共に、

ロ 少なくとも2段目以上の各養鶏ケージの下方で該養鶏ケージの下の養鶏ケージの屋根部分に、前記中央部の通風路側に下がるように傾斜した糞受体を設け、

ハ 且つ糞受体上に落下する鶏糞を掻き落とすスクレーパーを設けた養鶏ケージユニットを複数並設し、

ニ 上記養鶏ケージユニットの最上段の養鶏ケージの上に、前記通風路と連通した水平な風道体と該風道体に空気を吹き込む送風機を設けることによって、

ホ 前記送風機による空気流を、前記風道体と前記通風路を通って下向きの空気流となして各糞受体の表面に吹きつけて養鶏ケージ外へ流通させる空気流通路を形成した

ヘ ことを特徴とする養鶏ケージユニットにおける養鶏ケージと糞受体との構造。

3  被告の行為

被告は、別紙被告製品目録添付図面記載の養鶏ケージユニット(その構成は一部争いがある。以下「被告製品」という。)を、「ハイテム サルメット 直立ケージシステム」(甲4)及び「ハイテム クリーンパックケージシステム」(乙6)という名称で製造、販売している。

二  原告の請求

本件は、原告が、被告に対し、被告製品は本件発明の技術的範囲に属するから、被告が被告製品を製造、販売する行為は本件特許権を侵害するとして、①特許法一〇〇条一項に基づく被告製品の製造、販売等の差止め、②同条二項に基づく被告製品等の廃棄、③本件特許権侵害に基づく損害賠償を請求した事案である。

三  争点

1  被告製品の構成

2  被告製品は本件発明の技術的範囲に属するか。

(一) 被告製品は、本件発明の構成要件ニを充足するか。

(二) 被告製品は、本件発明の構成要件ホを充足するか。

3  損害額

第三争点に関する当事者の主張

一  争点1(被告製品の構成)について

【原告の主張】

被告製品の構成は、別紙被告製品目録の「原告の主張」欄記載のとおりに特定すべきである。

【被告の主張】

被告製品の構成は、別紙被告製品目録の「被告の主張」欄記載のとおりに特定すべきである。

二  争点2(一)(構成要件ニの充足性)について

【被告の主張】

1(一) 本件明細書における唯一の実施例の記載を見ると、次のように記載されている。

(1) 最上段の養鶏ケージ2の上には、上記通風路3を中央にして養鶏ケージユニット1の縦列方向に風道体7が設けてあり、この風道体2の端には送風機8が内設してある。この送風機8を作動させることによって風を通風路3内に送り込むことができる。(本件公報4欄37ないし41行目)

(2) 風道体7に設けた送風機8から送られる風は、矢印のように養鶏ケージユニット1の中央部の通風路3から積設した養鶏ケージ2の下段方向へと流れる。(本件公報4欄48行目ないし5欄1行目)

(3) 各養鶏ケージ2の裏面側、すなわち通風路3側は、この通風路3を通る風が各養鶏ケージ2内に直接流れ込まないように遮蔽されている。(本件公報4欄15ないし18行目)

(4) 通風路3から下方に流れる風は、上記のような構成により直接各段の養鶏ケージ2に入れた鶏には当たらない。そのため、鶏の健康管理の点で大いにその効果を発揮することができる。(本件公報5欄17ないし20行目)

(二) 本件発明は、右のような構成により、①養鶏ケージユニット内に流す風が、各養鶏ケージと糞受体との配置構造から直接養鶏ケージ内の鶏に当たらないようにしてあるので、鶏の健康面を損なうことがない、②最小限の容量の送風機を用いて、効率よく換気できる、③本発明による換気のための空気流は、糞受体の表面に沿って流通するので、鶏糞の乾燥も効率よく行われる、という効果を奏するものである。

(三) このような本件発明の効果を奏するためには、構成要件ニの「風道体」と「通風路」は、前記実施例の記載に示されているとおり、糞受体に至るまでは、途中で開口して空気を逃がすようなことなく、外部とは密閉した状態で連通していることが必須の要件というべきである。

(四) また、原告は、本件発明の出願過程において、特許庁審査官から発せられた拒絶理由通知に対して提出した意見書の中で、次のように述べている。

「エネルギー効率を悪化させることなく、糞の乾燥効率を上げるには、本願のように、ファンの空気流を先ず糞受体に直接当て、その一部をケージの換気に供するという構成が必須である。即ち、ファンから糞受体までの空間は実質的に密閉して効率よく糞に空気流を当てることが必要であるが、一旦、糞受体に当たった空気流はもはや密閉する必要は無いのである。このように、ファンから糞受体までの空間は実質的に密閉して効率よく糞に空気流を当てるために空気流通路を備えた構造に、発明の特許性が備わっているのである。」右記載からしても、被告の前記主張は裏付けられる。

2 他方、被告製品では、

(一) エアダクトと養鶏ケージユニットの通風路とは送風ノズルで連通しておらず、間隙がある。

(二) 送風ノズルが設けられていないエアダクトの区域の養鶏ケージユニット内では、鶏糞落下路3の上部は、上方に解放(開口)されている。

(三) 鶏糞落下路3側の背中合わせの養鶏ケージ2には鶏の健康面を損なわないようにする何らの遮蔽体も設けられていないので、空気ノズルから該空気ノズルの吹き出し口の周辺部から吸い込んだ空気と共に鶏糞落下路3に送り込まれた空気は、糞受体6に到達する前に、左右のケージ2へも送風換気される。

(四) 以上の構成により、被告製品は、前記意見書で原告が述べている「ファンから糞受体までの空間は実質的に密閉して効率よく鶏糞に空気流を当てるための空気流通路を備えた構造」にはなっていない。したがって、被告製品は本件発明の構成要件ニの「通風路と連通した水平な風道体」の要件を充足しない。

【原告の主張】

1 そもそも、本件発明は、「養鶏ケージの糞受体に直接風が当たるように送風し、鶏糞の乾燥を効率よく行うとともに、鶏には直接強い空気流が当たらないような構造を提供すること」を目的としているものであり、そのために、本件発明は本件明細書の特許請求の範囲記載の構成を採っている。その構成の趣旨を説明するために、原告は、被告指摘の意見書において、「ファンから糞受体までの空間は実質的に密閉して効率よく糞に空気流を当てるための空気流通路を備えた構造」との表現をとっているが、その趣旨は、公知技術においては、養鶏舎全体にのみ送風機ないしファンを設置し、糞の乾燥のための空気流と養鶏ケージの換気のための空気流とを特に区別せず、本件発明のような糞の乾燥のための空気流のみ強くするための構造を何ら提供していなかったことと対比して、本件発明を説明するものにすぎない。

これを前提として、次のようにいうことができる。

(一) まず、「通風路3側の背中合わせの養鶏ケージ2に遮蔽体が設けられていること」は、本件発明の構成要件ではない。

確かに、本件明細書記載の実施例では、通風路3側が遮蔽されている例を記載しているが、これは一実施例にすぎず、本件発明の技術的範囲を右実施例により限定する趣旨ではない(当然のことであるが、本件明細書における特許請求の範囲にそのような限定した構成要件は存在しない。)。現に、原告の実施品においても、右遮蔽体は特に設けられていないが、これで、本件発明の趣旨目的が損なわれることは何らない。確かに遮蔽体を設ければ本件発明の趣旨目的がより発揮されるということができるが、他方コスト面の問題もあるので、本件発明の実施にあたっては、遮蔽体を設けないというバリエーションも当然考慮にいれられるのである。

(二) 次に、「連通」の解釈であるが、これは、一般に、「流れる状態にすること、通路を介して通し連なること。(例)空気空間がパイプで連通されている。ガス供給源から噴出口まで一本の管で連通している。」(特許技術用語委員会編・特許技術用語集、日刊工業新聞社)と定義されている。

被告は、被告製品のように、エアダクトの途中に設けられた空気ノズル設置部で外部空気と通じるように構成されているものは、本件発明において風道体7と通風路3とが分断されることなく「連通した」ものとは、構造が相違する、などと主張するのであるが、独自の見解というべきである。

被告製品においても、風道体から、送風ノズルを垂直に下ろしており、通風路に向けて(あるいは、通風路を狙って、といってもよい)送風することを意図していることは極めて明らかである。

ここに、風道体と通風路が「連通」するというのは、風道体の送風機の作動により、風道体から通風路内へ送風することが可能である様態を広く含んでいると解すべきなのである。

(三) 要するに、明細書に明らかにされているような従来の公知技術との比較という文脈において見るならば、被告製品も、本件発明同様、「ファンから糞受体までの空間は実質的に密閉して効率よく鶏糞に空気流を当てるための空気流通路を備えた構造(前記意見書)」を具備していると十分に評価されるものである。

三  争点2(二)(構成要件ホの充足性)について

【被告の主張】

本件発明における「空気流通路」は、「風道体7、通風路3、及び隙間10とから構成され」ており(本件公報5欄5ないし7行目)、しかも隙間10は、「養鶏ケージ2の給餌受4と卵受体5との隙間」を指している(本件公報5欄3ないし4行目)。したがって、本件発明では、吹き込まれる空気は給餌受4と卵受体5の隙間10だけから外に流れることになっている。

他方、被告製品では、水平に近く緩やかに傾斜した糞受体6に沿ってその上縁部と上段ケージの卵受体5の支えとなっているケージ床の金網の下方との広い隙間から外方へ流れ出るようになっている。

また、被告製品では、糞受体6の傾斜を緩やかにして上段ケージと糞受体6後部(鶏糞落下路側)との間隔を狭くすることにより、この部分から多量の空気が分流することがないので、送風機から鶏糞落下路を通って下方に流れる空気を、上方のケージから下方のケージまで万遍なく供給することができるという効果を有する。

したがって、被告製品は、本件発明の構成要件ホの「空気流通路」の要件を充足しない。

【原告の主張】

被告が主張する、被告製品の鶏糞落下路と本件明細書記載の本件発明実施例におけるそれとの違いについては、あくまで一実施例との些細な相違を述べ立てるものにすぎず、被告製品にあっても本件発明の特許請求の範囲に示された構成要件ホを充足していることは明らかというべきである。

四  争点3(損害)について

【原告の主張】

1 逸失利益

被告は、本件特許の登録日である平成八年一一月二一日から現在に至るまで、少なくとも合計三億円相当の被告製品の製造販売を行い、右販売により少なくとも三〇〇〇万円の利益を上げていると見られるので、右金額が原告の損害額であると推定される。

2 弁護士費用

被告が原告の度重なる警告にもかかわらず、被告製品の販売を取り止めないため、原告は本訴遂行を弁護士に依頼した。本訴の事案の内容、難易等にもかんがみれば、本件差止め及び損害賠償請求にかかる弁護士費用の賠償として被告に負担させるべき金額は五〇〇万円を下らないというべきである。

【被告の主張】

争う。

第四争点に対する当裁判所の判断

一  争点2(一)(構成要件ニ充足性)について

1  本件明細書によれば、本件発明の目的、作用及び効果は、次のとおりである(甲3)。

(一) 目的(本件公報3欄17ないし20行目)

本発明の目的は、養鶏ケージの糞受体に直接風が当たるように送風し、鶏糞の乾燥を効率よく行うとともに、鶏には直接強い空気流が当たらないような構造を提供することである。

(二) 作用(本件公報3欄40行目ないし4欄2行目)

(1) 送風機から養鶏ケージユニットの中央部の通風路を通って下方に流動してくる風は、各段においてその風の一部が糞受体に当たり、該糞受体の表面を這うようにして上昇し、各養鶏ケージと糞受体の前部の隙間からユニット外に出ていく。

(2) この時、糞受体上に堆積した糞体は、上記糞受体の表面を這うように流れる風によって乾燥される。

(3) また、中央部の通風路から下方に流動する風は、糞受体に直接当たり、この糞受体は養鶏ケージの屋根を兼ねているので、養鶏ケージ内の鶏には直接風が強く当たるといったことを避けることができる。

(4) さらに、養鶏舎内の換気は、糞受体に当たって弱まった風によって行われる。

(三) 効果(本件公報5欄23行目ないし6欄14行目)

(1) 衛生管理上、養鶏ケージユニット内に流す風が、各養鶏ケージと糞受体との配置構造から直接養鶏ケージ内の鶏に当たらないようにしてあるので、鶏の健康面を損なうことなく、また、養鶏ケージユニットの雰囲気環境をより良好に維持することができ、産卵に悪影響を及ぼすといった懸念を払拭することができる。

(2) 従来は、鶏舎全体を換気するために大容量の送風機が必要であったが、本発明によれば、最小限の容量の送風機を用いて、効率よく換気できるという効果が得られ、イニシャルコストもランニングコストも低減できるという効果が得られる。

(3) さらに、本発明による換気のための空気流は、糞受体の表面に沿って流通するので、鶏糞の乾燥も効率よく行われるという効果も得られる。

(4) このようにして、本発明の構造によれば、養鶏舎自体は、密閉構造にする必要がないので簡単な構造でよく、多大な投資を要しないという効果が得られる。

(5) また、停電しても自然で換気が行われるので鶏への影響が少なくなる。

2  また、本件発明の出願過程においては、特許庁審査官から発せられた平成八年三月七日付拒絶理由通知書(乙1)に対して、原告が提出した同年六月三日付意見書(乙4)には、次の記載がある。

「エネルギー効率を悪化させることなく、糞の乾燥効率を上げるには、本願のように、ファンの空気流を先ず糞受体に直接当て、その一部をケージの換気に供するという構成が必須である。即ち、ファンから糞受体までの空間は実質的に密閉して効率よく糞に空気流を当てることが必要であるが、一旦、糞受体に当たった空気流はもはや密閉する必要は無いのである。このように、ファンから糞受体までの空間は実質的に密閉して効率よく糞に空気流を当てるために空気流通路を備えた構造に、発明の特許性が備わっている。」

3(一)  右のような本件明細書に示された目的、作用及び効果からすれば、本件発明においては、送風機から吹き込まれた空気流は、養鶏ケージの糞受体に直接当たるものでなければならず、なおかつ、鶏の健康等に悪影響を及ぼさないために、養鶏ケージ内の鶏には直接当たることがないことを要すると解される。

そして、送風機から風道体を通って通風路に下向きに送り込まれた空気流は、左右方向(水平方向)に拡散しようとするから、空気流が養鶏ケージの糞受体に直接当たり、なおかつ、養鶏ケージ内の鶏に直接当たることがないためには、各養鶏ケージの上面(屋根)部分と裏面部分(鶏糞落下路側)が空気流の入らない構造となっている必要があるというべきである。

(二)  しかるところ、本件明細書において、右の構造を開示しているのは、次の記載のみである(甲3)。

(1) 上下の養鶏ケージ2間は、適当に間隔を設けてあり、各養鶏ケージ2の裏面側、すなわち通風路3側は、この通風路3を通る風が各養鶏ケージ2内に直接流れ込まないように遮蔽されている。(本件公報4欄15ないし18行目)

(2) 糞受体6は上方の養鶏ケージ2から落下してくる鶏糞を受けると共に、この養鶏ケージ2の下の養鶏ケージ2に、通風路3を流れる風が直接入らないようにしている。(本件公報4欄31ないし34行目)

(三)  以上よりすれば、本件発明の構成要件ニの「通風路」を備えているといえるためには、各養鶏ケージの上面(屋根)及び裏面が遮蔽されている必要があると解するのが相当であり、このように解する場合には、送風機から風道体を通って養鶏ケージユニットに吹き込まれた空気流は、糞受体に当たるまでに通風路外に漏れることがないことになり、前記意見書における「ファンから糞受体までの空間は実質的に密閉して効率よく糞に空気流を当てるために空気流通路を備えた構造に、本件発明の特許性が備わっている。」との記載にも合致し、なおかつ、養鶏ケージ内の鶏に該空気流が直接当たらないことになるものである。

これに対し原告は、養鶏ケージの裏面に遮蔽体が設けられていることは、本件発明の構成要件とされておらず、原告の実施品においても右遮蔽体は設けられていないと主張するが、本件明細書及び前記意見書の記載に照らすと右遮蔽体が必要であると解されることは前記のとおりであり、また、原告の製品の構造は、本件発明の技術的範囲の認定に影響を及ぼすものではない。

4  他方、被告製品の構成Eについては、争点1のとおり争いがあるが、各養鶏ケージ2の鶏糞落下路3側に遮蔽体が設けられていないこと(構成A)は争いがなく、また乙6によれば、最上段の養鶏ケージの屋根部分は送風ノズル11から吹き出された空気流に対して遮蔽されていないと認められるから、被告製品は、本件発明の構成要件ニの「通風路」を具備せず、同構成要件を充足しないというべきである。

なお、乙6の被告製品のカタログ中の図面では、被告製品における空気流は、上下の養鶏ケージ間にのみ流入するように描かれており、各養鶏ケージ内に入り込むようには記載されていない。しかし、右図面に記載された養鶏ケージ裏面の高さと上下の養鶏ケージ間の高さは、前者の方が大きいから、送風ノズルから下向きに吹き出された空気流が、上下の養鶏ケージ間にのみ入り込み、各養鶏ケージ内に入り込まないとは考え難い。また、乙6は宣伝用のパンフレットであり、糞乾を促進することを宣伝文句の一つとしていることからすれば、糞乾のための空気流のみを強調して記載したものと考えられる。したがって、乙6の記載のみによって、被告製品においても各養鶏ケージ内に空気流が入り込まないとはいえない。

5  よって、被告製品は、本件発明の技術的範囲に属しない。

二  結論

以上によれば、その余について判断するまでもなく、原告の請求は理由がないから、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小松一雄 裁判官 高松宏之 裁判官 安永武央)

<以下省略>

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